男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
呆れたような声が上から降ってきて、私は体を丸めたまま、床に向けて謝る。
「申し訳ございません……」
「ジャコブは知っているのか?」
「いいえ、誰にも話しておりません。ジャコブもきっと、気づいていないかと……」
「そうか」
踵を返す、黒いブーツを見ていた。
殿下は私から離れてドアへと向かい、立ち止まると、低く落とした声で言った。
「服を着たら、執務室に来い。説明はそこで聞こう。逃げるなよ」
「はい……」
逃げたくても、逃げる場所など、この城の中にはない。
実家に逃げ帰ったとしても、大公殿下がひと声かければすぐに追っ手が押し寄せてくることだろう。
ドアが開く音と閉まる音がして、部屋の中は再び静寂に包まれた。
やっと身を起こした私は、ドアに飛びつくように駆け寄り、急いで鍵を閉める。
今さら閉めても遅いと、分かってはいるけれど……。
その後は胸に布帯を巻き直し、キャビネットから出したブラウスを着て、腰に剣を差す。
身支度を整えた私は、仕方なく部屋を出た。
命令に背くわけにいかないからと、怖気付く気持ちを叱りつけて、重たい足を前に進めた。