男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

人払いとは、立ち聞きする者のいないように、ドア前で見張りに立つということ。

クロードさんは指示通りに出て行き、ドアが閉められると、ふたりきりの室内の緊張感に、私の両手は震え始めた。


怖くても、逃げ場はないんだから……。

そう自分に言い聞かせ、拳をギュッと握って執務机の前まで進み、そこでもう一度、深々と頭を下げた。


「面を上げろ」

「は、はい」


殿下は黒い革張りの椅子に、ゆったりと腰掛けていた。

長い足を組み、肘掛けに両腕を乗せて、頭を背もたれに預けている。

一見くつろいでいるような姿勢だが、青い視線は鋭く、私の顔に、体に、刺さるようだった。

思わず肩を竦めた私に、殿下は静かな声で問う。


「お前の本当の名は?」


「ス、ステファニーです。
ステファンは双子の兄の名前で、私はステファニー・フォーレルと申します……」


「ステファニー、なぜ女のお前が教育を受けに来たのか説明しろ。正直にな」


さっきまで、どう言い訳すれば両親や兄への被害を少なくできるだろうと考えていたのに、射るような青い視線を浴びせられては、少しの嘘も通用しないと感じていた。

嘘や言い訳は、反って立場を悪くしそうだという予感も……。

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