男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
考えながらも、隣に座るリリィの話に、笑顔で相槌を打ち続ける。
テーブルの角を挟んだリリィの隣に座る大公殿下は、優雅にナイフとフォークを操りながら、私たちの様子を目を細めて見守っていた。
リリィが「もうお腹いっぱい」と言って、お皿に残った手付かずの生ハムを、フォークに乗せて私の口元に持ってきた。
生ハムは大好きだ。
反射的にパクリとリリィのフォークから食べてしまい、その後に大公殿下を気にして顔色を伺った。
殿下は苦笑いして、妹をたしなめる。
「こら、リリィ、はしたないぞ。
ステファンは男だ。節度を持って仲良くしてくれ」
私が女であることを、リリィは知らない。
知っているのは大公殿下とクロードさんだけ。ジャコブにも言うなと命令されている。
ふたりが秘密をバラすとは考えていないが、ふとした会話や行動から他者に気づかれる可能性は否定できない。
秘密を守り続けるには、正体を知る者は最小に留めておくべきだというのが、殿下の考えだ。