男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
リリィにもらった生ハムを味わいながら考えていると、ドアがノックされた。
入ったきたのはクロードさんで、いつもの黒い執事服は皺ひとつなく、パリッと洗濯糊が効いていて、たった今、袖を通したといった様子に見えた。
その予想は外れていないと思う。クロードさんは今、出勤してきたところだから。
殿下の側にいる時間が増えると、クロードさんの生活も少しだけ見えてくる。
彼は妻帯者で、小さな子供もいるという。
そして住まいは城の外。城下街の南側に屋敷を構え、そこで家族と暮らし、ここへは毎朝出勤しているそうだ。
「お早うございます」と笑顔で挨拶をするクロードさん。
いつもなら挨拶だけして、後は食事が終わるまで殿下の後ろに控えているのだが、今日は違った。
「大公殿下、謁見の間にてバルドン公爵とエリーヌ嬢がお待ちでございます」
「叔父上が? こんな朝っぱらから、なんだというんだ」
「お嬢様を伴われてのことですので、殿下にとっては面白くない話でしょうね。
『急ぎの用だと伝えろ』とのご用件を伺いました」