男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
澄まして答えるクロードさんに対し、殿下は舌打ちをして眉間に皺を寄せている。
それでも拒否することはなく、ナイフとフォークを置いてすぐに立ち上がった。
「ステファン、行くぞ」
「は、はい!」
謁見の間での面会には、必ず護衛に青の騎士がつく決まりになっていて、授業中でない限り、その役目は私だと言われていた。
「行ってらっしゃい」と寂しそうにするリリィを可哀想だと思いながらも、私も席を立つ。
殿下とクロードさんの背中を追うように部屋を出て、廊下に歩を進めた。
二階に下りて煌びやかな謁見の間に入ると、入口付近の椅子に座って待っていたバルドン公爵が、『遅い』と言いたげな顔で立ち上がった。
隣の椅子に座っていたのは、エリーヌ嬢。
年の頃は十九か二十歳に見える。
エリーヌ嬢の名前は、これまでに何度か聞いた気がする。バルドン公爵が娘を殿下の花嫁候補にしようと企んでいることも。
実際にお目にかかるのはこれが初めてで、バルドン公爵に似た太めの体型の意地悪そうなお嬢様を想像していた私は、意外な人物像に驚いていた。
細っそりとして、少し垂れ目の優しげな目元をした、かなりの美人だった。