男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
エリーヌ嬢は殿下に封筒を渡し終えると、百合の花のように可憐な笑顔で会釈して、元の位置まで下がる。
殿下はエリーヌ嬢に極上の笑顔を向けられても、なんの反応も示さない。
手の中の封筒にチラリと視線を落としただけで、開封せずに上着のポケットに突っ込むと、バルドン公爵に聞いた。
「毎年恒例の舞踏会か?」
「さようです。昨年よりも一層盛大に開くつもりで準備をしております。是非、ご出席下さいますよう」
バルドン家主催の舞踏会に、きっと殿下は毎年出席しているのだろう。
バルドン公爵は余裕の笑顔で、断られる心配を全く感じていない様子。
大公殿下は『またアレか』と言いたげな、面倒臭そうな顔をして、口からは溜息がひとつこぼれ落ちていた。
「分かった。都合をつけておく」
その返事にバルドン公爵は満足そうに頷き、エリーヌ嬢は頬を綻ばせる。
ひとりだけ明らかに迷惑そうにしている殿下を見て、『嫌なら断ればいいのに……』と私は心の中で呟いた。
簡単に断ることのできない事情があるのだろうと、分かってはいるけれど。