男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
大公殿下の人柄を質問しても、『ご立派な方です』とひと言だけで、説明になっていない。
車窓の風景に私がいちいち反応して『鹿の群れだ!』と叫んだときには、返事さえしてくれなかった。
ジャコブは、私と必要最低限の会話しかしてはいけないと命令されているのだろうか?
なんてつまらない……。
ジャコブを通して、大公の城での生活とは、厳しい規則でがんじがらめなのではないかと、嫌な予感がしていた。
でも引き返そうとは、思わない。
わずかな嫌悪や不安など、潰れてしまうほどに大きく膨らんだ期待が胸にあるからだ。
都とは、一体どんなところなのだろう……。
青の騎士団を間近で見て、できれば手合わせ願いたい。大公殿下の剣の腕前も、拝見する機会があればいいのに。
「ステファン様、モンテクレール大公国の城下街はもうすぐです」とジャコブが事務的に説明してから間もなく、馬車は解放されている石の門の内側に入っていった。