男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

窓ガラスに張り付いた私は、初めて見る街並みに、「わぁ、すごい！」と歓声を上げていた。


広い大通りには、たくさんの馬車や人が行き交い活気に満ちている。

パン屋に肉屋、香辛料を売る店に、床屋と酒場と洋服の仕立て屋など、店がズラリと軒を連ねていた。

広場のように丸く開けた区画の中心には、立派な鐘楼が目を惹く大きな教会が建っていて、大勢の人が出入りしている。


こんなにも人で賑わう場所も、隙間もないほどに密集した家々も、私には珍しい。

生まれ育ったフォーレル家の領地には、小っぽけな村が三つだけ。後は収益の上がらない痩せた農地ばかりなのだから。


大きな街を初めて目にした私は、右を見たり左を見たりと忙しい。

ジャコブが座っている側の窓ガラスの外を指差して、「あそこのお屋敷はなに？」と興奮気味に彼に聞いた。


西の方角に、赤瓦の屋根の一際大きな邸宅が見えていた。

三階建て……いや、四階建てだろうか。

大商人の屋敷か、それとも公的な機関なのかもしれないと思っていたら、「バルトン公爵のお屋敷でございます」とジャコブが簡素な説明を返してくれた。


バルトン公爵……？

私の社交界デビューは、隣の領地の子爵夫妻の結婚祝賀会にお呼ばれしたときだった。

そのときは確か、十二歳。

それ以降、田舎貴族の娘にパーティの招待状が届くことはなく、貴族の名前をほとんど知らないままに十六になってしまった。