男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

後は髪の毛。池に頭は付けていないが、結わえている髪の下の方は濡れていて、ドロドロの藻も絡まりついているようだ。

髪紐を解いていたら、隣の部屋に繋がるドアの向こうに、急に話し声がした。

一瞬、執事が掃除でもしているのかと思ったが、すぐに違うと気づく。

この声は……殿下とリリィ?


まだ日が高いというのに、なぜ殿下は寝室に戻ってきたのだろうと不思議に思っていた。

しかもリリィまで連れて。

いくら仲の良い兄妹でも、お互いの寝室に出入りすることはないと思うのに。


つい耳をそばだてると、リリィがなにかをお願いしているようだった。


「お兄様、どうか許して。今すぐじゃなく、四年も先のことよ?」


「ステファンだけはダメだと言っているだろう。頼むから諦めてくれ」


「どうしてよ! お兄様だってステファンのことを気に入ってるじゃない!」


これは、もしや……。

リリィからのプロポーズを、殿下にどう相談すべきかと悩んでいたのに、私より先に彼女が話してしまったようだ。

リリィは許してもらえると思っていたのに、反対されて驚いたことだろう。

それでも諦めずに、逃げる兄を追って、寝室まで入ってきたということか。
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