男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「バルトン公爵って、誰?」と振り向いて尋ねたら、それまで無表情を貫いていたジャコブが驚いた顔をする。
「ジャコブ、どうしたの?」
「い、いえ、申し訳ございません。
バルトン公爵は大公殿下の叔父にあたる方で、モンテクレール家の次に力のある御家柄です」
「ふーん。偉い人なんだ。
じゃあ、わた……僕にはあまり関係ない人かもね」
田舎者の自覚があるので、上級貴族への関心は薄い。相手にしてもらえないという思いがあるから。
大公殿下に関しては、これから三年もお世話になることでもあるし、凄腕の剣士だということで、ものすごく興味はあるけれど。
活気のある街並みを抜け、馬車はなだらかな石畳の坂を上っていた。
石積みのアーチ型の門には、重厚な鉄の扉。
それを守っている門番がふたりいて、御者が通行証のようなものを見せると、重く軋む音を響かせて開城された。
「ここが、大公殿下のお城……」
独り言を呟いた後は、溜息しか出てこない。
広大な敷地内は新緑の草木と花で溢れ、美しく手入れが行き届いていた。
門から真っすぐに伸びる石畳の道の遠い奥に、大公殿下のお屋敷が見えていた。