男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「キャア!」と短い悲鳴を上げて、体を隠すように丸くなる。
コツコツとブーツの音が背後に近づき、再び悲鳴を上げたくなったら、背中にタオルが掛けられた。
「髪の汚れが、落ちてないぞ。
これは、水草か? なにをやってたんだ?」
呆れたように言われた後は、側に用意していた櫛を殿下が手に取り、私の髪を梳かし始めたから、また驚いた。
どうやら櫛で、髪にこびり付いた藻を、こそげ落としてくれているようだけど……。
「どうか、おやめ下さい。殿下がそのようなことをなさるのは……」
大公殿下に使用人のような真似はさせられない。
加えてこの恥ずかしさ。
体をすっぽりと包む大きさのタオルが掛けられていても、恥ずかしさのレベルはほとんど下がらず、鼓動は爆音を響かせている。
慌てて殿下の手から櫛を奪い取ろうとしたが、アッサリとかわされて、「じっとしてろ」と命じられた。
「後ろについている汚れは、ひとりでは洗えないだろ」
「し、しかし」
「俺の他に、お前の髪を洗ってやれる者がいるのか?」
それは……いない。
女だという秘密を守らねばならないのだから、メイドにも頼めない。
「申し訳ありません」と謝って、されるがままになる私。
櫛で藻をこそいでは湯をかけることを繰り返す殿下が、「俺はリリィに嫌われたぞ」と文句を言うから、また謝らねばならなかった。