男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

ふたりの人間とは、リリィと、それから……。

心臓が耳元で鳴っているかのように激しく波打ち、勝手に期待が湧いてくる。

殿下は私をお好きなのではないだろうかと考えたら、嬉しくなって、初めての恋に落ちてしまいそう。

しかし、そうならないように、現実的な問題を考えて、落ち着こうとしていた。


田舎の落ちぶれ貴族の私は、殿下に相応しい相手ではない。

女らしさから遠く離れた、おかしな性格をしているし、髪を短くしてズボンを穿き、剣を振り回していては、殿下と釣り合う女性には到底見えない。

大公殿下には、貴族然りとした淑女が似合う。

美しいエリーヌ嬢のような……。


思い出したエリーヌ嬢の存在に、チクリと胸が痛んだ。

その痛みの意味を考えている暇はない。

体に回された殿下の腕が緩んだと思ったら、右肩になにか、柔らかな感触が……これは殿下の唇だ。

肩にキスを受け、息が止まるほどに驚く私。

どうしよう、このままでは心臓が壊れてしまいそうだ……。


殿下の唇は私の肌より温かい。

その唇が、肌の感触を楽しむかのように、ゆっくりと移動していた。

肩からうなじへ。首筋を上って耳へ達すると、艶めいた吐息混じりの声で囁かれる。


「ステファニーの肌は美しいな……。
陶器のように白く滑らかで、焼き立てのパンのようにしっとりと柔らかい」


< 182 / 355 >

この作品をシェア

pagetop