男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ふたりの人間とは、リリィと、それから……。
心臓が耳元で鳴っているかのように激しく波打ち、勝手に期待が湧いてくる。
殿下は私をお好きなのではないだろうかと考えたら、嬉しくなって、初めての恋に落ちてしまいそう。
しかし、そうならないように、現実的な問題を考えて、落ち着こうとしていた。
田舎の落ちぶれ貴族の私は、殿下に相応しい相手ではない。
女らしさから遠く離れた、おかしな性格をしているし、髪を短くしてズボンを穿き、剣を振り回していては、殿下と釣り合う女性には到底見えない。
大公殿下には、貴族然りとした淑女が似合う。
美しいエリーヌ嬢のような……。
思い出したエリーヌ嬢の存在に、チクリと胸が痛んだ。
その痛みの意味を考えている暇はない。
体に回された殿下の腕が緩んだと思ったら、右肩になにか、柔らかな感触が……これは殿下の唇だ。
肩にキスを受け、息が止まるほどに驚く私。
どうしよう、このままでは心臓が壊れてしまいそうだ……。
殿下の唇は私の肌より温かい。
その唇が、肌の感触を楽しむかのように、ゆっくりと移動していた。
肩からうなじへ。首筋を上って耳へ達すると、艶めいた吐息混じりの声で囁かれる。
「ステファニーの肌は美しいな……。
陶器のように白く滑らかで、焼き立てのパンのようにしっとりと柔らかい」