男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
結論が出た後は、後ろに踵を返す気配がして、ドアへと移動するブーツの音が聞こえていた。
ドアを開ける音も聞こえて、やっと羞恥から解放されると気を緩めようとしたら、からかうような調子で言われる。
「勇敢な騎士のお前でも、こういう場面では怖気付くんだな」
パタンとドアが閉められ、隣の部屋から漏れる笑い声を聞いていた。
そっと後ろを振り向いて、殿下がいないことを確かめてから、私は立ち上がり、大急ぎで新しい布帯を胸に巻く。
まだ体が濡れているけれど、またドアが開くかもしれないと考えているから、拭いている暇もない。
身支度しながら考えていることは、最後に残した殿下の言葉。
アレは、からかわれたという解釈で、いいんだよね?
笑われたことでもあるし、まるで私を想っているかのような言動は、全て冗談だったということで……。
ホッとしたような、逆に残念に思うような、複雑な気持ちにさせられていた。
ホッとする理由は分かる。分不相応の恋に陥れば、先は苦しみしかないからだ。
でも、残念に思うのはどうして……。
もしかして、私は既に殿下に恋しているのだろうか?という考えに行き着いて、瞬時に顔が熱くなる。
こんな私が恋なんて、そんなまさか……。
ハッキリと形にならない想いは、まだ恋じゃないと思い込もうとする。
ここで踏み止まれば、なんの問題もないのだから、これ以上、心を揺らさないようにしないと。
それでも、殿下の唇が触れた、この体を意識してしまう。
右肩からうなじまでを指で辿り、ひとり重たい溜息を吐き出していた。