男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
舞踏会に芽生える恋と不信
◇◇◇
『本当に女の子なの?』と、涙目のリリィに聞かれたのは、ひと月ほど前のこと。
やはり、かなりのショックを受けたようで、しばらく元気のないリリィだったが、今は元通りの溌剌とした笑顔を見せてくれている。
夏が終わろうとしているこの季節、中庭に涼しい風が吹いていた。
食事も終えて、午後の授業が始まるまでの休憩時間を、リリィと一緒に過ごしている。
ガーデンテーブルに向かい合って、紅茶を飲みながらの他愛ないお喋りタイムだ。
「ねぇ、ステファニー」と、本当の名前で呼ばれ、ギクリとする。
リリィの侍女は、先程お茶のお代わりを用意しに出て行ったので、周囲には誰もいない。
それでもここは中庭なので、四方を囲む壁には窓がついており、誰かに聞かれる可能性は充分にある。
唇に人差し指を当て、「しー!」と注意してみたが、リリィは「あら、ごめんなさい」と笑うだけで、反省の様子は見られなかった。
大公殿下が、最初からリリィに事情を話さなかった理由は、これなのか。
積極的に秘密を暴露するような女の子ではないけれど、まだ子供だから"うっかり"が多く、注意が足りない気がする。
秘密がバレたら大変なことになるという認識も甘い気がしていた。