男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
冷や汗を流した私に、「だって紛らわしいんですもの」と言い訳するリリィは、一通の白い封筒を差し出した。
「お手紙を書いてきたの。これを本物のステファンに送ってね」
そう、今のリリィが恋する相手は私ではなく、実家にいる双子の兄だ。
どうしてこうなったのかというと、ひと月前、失恋に嘆くリリィが余りにも可哀想で、私はつい余計なことを言ってしまったからだ。
『実家には本物のステファンがいます。顔は私とそっくりで、背が少し高いです。ステファンは私よりも男らしい見た目ですよ』
兄は華奢な体型をしているけれど、一応男だから、姿形は当然、私より男らしい。でも性格は……。
臆病で、花と小鳥を愛する女々しい男であることは言わなかった。
その結果、こうなってしまった。
リリィは会ったこともない本物のステファンに恋をして、せっせと文通に励んでいるのだ。
おかしな噂が立つと困るので、手紙のやり取りは、私を介してこっそりと行っている。
大公殿下の妹君からの手紙に、兄は驚き、初めは困惑していたらしい。
でも、嫌ではないはず。
手紙を書くという行為は、屋敷に引きこもっていてもできることだし、家にいながら都の状況を少しは知ることができるもの。
退屈なステファンの生活に、リリィの手紙は刺激と彩りを与えてくれるのではなかろうかと、想像していた。