男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

リリィは頬を染めて、「いつか本物のステファンに会わせてね」と、小声で私にお願いしてくる。


「そ、そうですね。大公殿下のお許しがあれば、いつの日にか……」


屋敷から出たがらないステファンのことだから、呼んでもきっと来ないだろう。

来る気になったとしても、ステファンがふたりいることになり、それは困る。

弱虫な実物を見て、リリィががっかりして落ち込むのも困るし……答えに窮する私は、やっぱり殿下に丸投げするしかできなかった。


侍女が新しい紅茶のポットを抱えて、中庭に戻ってきた。

それと同時に、二階の謁見室の窓が開いて、大公殿下が顔を覗かせた。


「ステファン、午後の授業は早目に切り上げろよ。支度に時間がかかるからな」


その声かけに、首を傾げた私。

ガーデンチェアから立ち上がり、南の壁際まで駆け寄って、真上を見上げて聞き返した。


「支度とは、なんのことでしょう?」


すると殿下は片眉を吊り上げて、呆れ顔になる。


「バルドン家の舞踏会は、今日の夕方からだと教えただろう」


確かに数日前の食事の席で、その話は聞いた。

夕方から深夜まで、飲んで食べて喋って踊るという、面倒で退屈な宴なのだと、殿下は教えてくれた。

でも、私は招待されていないのだから、支度の必要はないはずなのに……。



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