男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
クロードさんに促されてマネキンの前まで歩み寄ると、それが最高級の布地と一流の縫製技術によって仕立てられたものであることが見て取れた。
こんな立派な燕尾服を私に……。
溜息をつき見惚れていたら、私の横に殿下が立った。
「どうした。ドレスの方がよかったと思っているのか?」と、からかって来る。
「ご冗談を。ドレスを着るわけにいきませんし、似合いもしません」
笑って言葉を返しつつ、殿下と視線を合わせたら……青い瞳が甘く煌めいたかのように感じて、心臓が跳ねた。
ひと月ほど前に沐浴中に踏み込まれて以降、あのドアが開けられることはなかった。
特別に心を乱される展開もなく、あのときの殿下の甘い言動は、やっぱり冗談だったのだと思うことにしている。
それなのに、こうして視線が合わさっただけで、なぜか私の胸は高鳴り、なにかを期待してしまうのだ。
まさか、これが恋というものなのか……。
消しても消しても浮かんでくる"恋"という言葉を、今日も殿下から視線を逸らして、消してしまおうとしていた。
すると、「なぜ目を逸らす」と不満げな声がして、顎先に長い指が掛けられた。
もう一方の殿下の手は、私の腰を引き寄せて、体が密着し……。