男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

恋のような気持ちに抗う私には、この冗談は厳しすぎるというものだ。

両手で殿下の胸元を押して抵抗すると、「生意気な」と、笑いを含んだ声で言われて、腰に回される腕にさらに力が込められた。


女の私が、力で殿下に敵うわけがない。

なす術のない私ができることと言えば、心臓を激しく動かして、心の中で慌てることだけ。


斜めに傾けて近づいて来る形の良い唇に、鼻腔をくすぐるバラの香り。

今にもくっつきそうな唇の距離に、瞬きもできぬほどに緊張して固まっていたが……私の唇に触れたのは殿下の唇ではなく、白い紙だった。

クロードさんが書類のような紙を一枚、手にしていて、それを私と殿下の顔の間に差し入れたのだ。


チッと舌打ちした殿下は、腕を離してくれて、私はよろけるように三歩、後ずさる。

クロードさんは私たちの間に立って、笑顔のままに、殿下を叱った。


「アミル、結婚前のステファニー様を、傷ものにする気?」


「キスくらい、いいだろ」


「ダメ。ふたりとも庶民とは違うんだから、ちゃんと手順を踏んで。色々するのは、フォーレル伯爵に結婚の申し入れをしてからだよ」



< 190 / 355 >

この作品をシェア

pagetop