男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
恋のような気持ちに抗う私には、この冗談は厳しすぎるというものだ。
両手で殿下の胸元を押して抵抗すると、「生意気な」と、笑いを含んだ声で言われて、腰に回される腕にさらに力が込められた。
女の私が、力で殿下に敵うわけがない。
なす術のない私ができることと言えば、心臓を激しく動かして、心の中で慌てることだけ。
斜めに傾けて近づいて来る形の良い唇に、鼻腔をくすぐるバラの香り。
今にもくっつきそうな唇の距離に、瞬きもできぬほどに緊張して固まっていたが……私の唇に触れたのは殿下の唇ではなく、白い紙だった。
クロードさんが書類のような紙を一枚、手にしていて、それを私と殿下の顔の間に差し入れたのだ。
チッと舌打ちした殿下は、腕を離してくれて、私はよろけるように三歩、後ずさる。
クロードさんは私たちの間に立って、笑顔のままに、殿下を叱った。
「アミル、結婚前のステファニー様を、傷ものにする気?」
「キスくらい、いいだろ」
「ダメ。ふたりとも庶民とは違うんだから、ちゃんと手順を踏んで。色々するのは、フォーレル伯爵に結婚の申し入れをしてからだよ」