男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

まるで私を妃にと考えているような会話が繰り広げられているけれど、のぼせた頭では理解することができなかった。


紙越しとは言え、唇が唇に……。


たった紙一枚なので、殿下の唇の弾力や温もりがハッキリと感じられた。

その感覚がまだ唇に残っていて、しばらく動揺の波は引きそうにない。


ふたりが、まだなにかを言い争っていても、唇に意識の全てを持っていかれた私には、聞こえていないのと同じだった。

紙一枚を挟んだキスは、私のファーストキスなのか、それともキス未遂なのか……。

考えれば考えれるほどに、動悸は激しくなるばかり。

心臓が持ちそうにないから、こんな冗談は、勘弁してもらいたかった。
< 191 / 355 >

この作品をシェア

pagetop