男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
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空に晩夏の月が昇る頃、私はバルドン家の二階にある大ホールにいた。
広い縦長のこのホールは、大公殿下のお屋敷以上に豪華絢爛。
壁には著名な画家の絵画が、これ見よがしに何十枚も飾られていて、柱や天井やシャンデリアは金や宝石で装飾されてコッテコテ。
飾りすぎといえるこの空間は、私の趣味には合わないけれど、他の貴族たちはバルドン公爵に挨拶しながら、口々に豪華さを誉めそやしていた。
今はバルドン公爵の長い挨拶と、乾杯が終わったところ。
後は自由に、飲んで食べて楽しんでくれということだ。
食事は立食形式となっており、壁際の長テーブルにはご馳走がずらりと並んでいて、『それが食べたい』と指差せば、給仕の使用人が世話してくれるようだった。
壁際には椅子も並べられているが、始まったばかりの今、座って食べている人はほとんどいない。
皆、食べるよりも挨拶回りに忙しい。
その挨拶回りの貴族たちが、我先にと押し寄せているのが殿下の元で、何重もの人の輪ができていた。