男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「早くしろ」と夜盗に急かされ、私は「分かりました」とベッドに身を起こす。
左手は毛布の中にあり、寝るときも離さない愛剣の鞘を握りしめていた。
毛布からゆっくりと裸足の足を抜いて、床につける。
と同時に剣を抜き、鼻先の夜盗の剣を弾き返した。
「おわっ!」と驚きの声を上げた男は、二歩下がって剣を構え直す。
「お前、ステファンの方か!?
くそっ、騙しやがって……」
ステファンは、私の双子の兄。
臆病な泣き虫で、花と小鳥を愛する女々しい男。
それに対して妹の私は趣味が剣術、ドレスを拒否して常に男装という、女らしさとはかけ離れた伯爵令嬢だ。
今身につけている白い寝巻きも、男物。
豊かに波打つ金色の髪だけは、母に懇願されて切るに切れず、腰までの長さがあるが、それでも夜盗の目には男に映るらしい。
剣で夜盗に立ち向かう貴族の令嬢など、私の他にはいないと思うので、兄と間違うのも無理はないと思うけれど。
「私はステファニーよ!」と自己主張しつつ、愛剣を振り上げる。
剣のぶつかる金属音が数回続いた後、バタバタと屋敷の中が騒がしくなり、「盗賊か!?」「お嬢様のお部屋の方で……」と話し声も聞こえた。
平和な眠りの中にいた家族と使用人たちが、やっと事態に気づいたようだ。