男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
バルドン公爵主催の晩餐会に遅れるとは、なかなかの度胸だと思っていたら、私が返事をする前に彼が言葉を付け足した。
「へぇ、父上の言う通り、女みたいな可愛い顔をしているな。これじゃ殿下が骨抜きになるのも無理はないか」
なんとなく棘を感じる言い方に加えて、私をジロジロ見る目付きが、いやらしかった。
表情を固くした私は「ステファン・フォーレルです」と名乗ってから、「あなたは?」と問いかけた。
彼はフフンと笑うだけで、なぜか名乗らない。
側を通る使用人を呼び止め、トレーからワイングラスふたつを手に取ると、ひとつを私に持たせてグラスを合わせた。
無理やり乾杯させられた後に、やっと彼は名前を口にする。
「ロドリグ・バルドン。名を知られていないということは、俺もまだまだのようだな」
バルドン公爵の息子……。
舞踏会に遅刻してきても許されるわけだと、納得していた。
母親似なのか、姿形は公爵に似ていないが、失礼で傲慢そうな雰囲気はそっくりだ。
苦手意識を持った私は、すぐにでも他に移動したい気持ちになるが、乾杯させられては、飲みながら話さないわけにはいかなかった。