男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
殿下は私が女であることを知っているので、弟のようには見られていないはず。
説明するなら愛玩犬と言ったところだが、それは恥ずかしいので、頷いておいた。
男色ではないと、分かってくれたなら、それでいい。
怒りを収めて、座り直した私は、話の続きを聞く態勢に戻る。
ロドリグはワインをひと口飲んでから、キツネ目を糸のように細め、からかうような口調で言った。
「弟のように思われているなら、別の意味で危ないなぁ。
命を取られるかもしれないよ。精々気をつけることだね」
「命? なぜですか?」
「そうか、君は田舎者みたいだから、七年前の話を知らないのか。教えてあげるよ。大公殿下の弟殺しの話を」
弟殺し……?
目を見開く私に、ロドリグはニヤリと笑う。
それはこんな話だった。
およそ七年前の春のこと。
先代の大公殿下が病床に伏してから一年ほどが経っていた。
先は長くないだろうという噂が広まると、貴族たちの関心事は大公殿下の息子たちに移る。
十八歳のアミルカーレと、十六歳のアベルだ。
父親が病に伏してからの政務は、長男のアミルカーレが執り行い、弟はその補佐をしていた。
まだ若い息子たちなので、近親であるバルドン家が手取り足取り、政治のイロハを教えたということだ。