男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
髪色や黒い棒タイのことを説明し、殿下はそんなことをする人ではないと強く訴える。
ロドリグは、必死な私の反論を一笑に伏し、キツネ目にかかる前髪を指先で横に弾くと、声を落として言った。
「髪色が変わったことこそ、弟殺しの証拠だよ。罪の証……いや、呪いと言うべきかな。
黒い棒タイは、弟の死を悼んでいるのだと、周囲に思わせたいからさ。
犯人は自分じゃないと言いたいのだろう。それが嘘なのは、誰もが知っていると言うのにね」
言葉をなくした私。
『ほら、ご覧よ』というように、ロドリグは視線をホールに移した。
つられて周囲を見回すと、十組ほどがダンスに興じる他は、あちこちに数人ずつの塊ができ、ヒソヒソと話している。
眉をひそめて相手の言葉に頷く男性に、口元に羽根扇を当てて内緒話をする女性。
ロドリグの話を聞いた後では、ホールにいるみんなが、七年前の話をしているように思えてしまった。
殿下が弟君を、殺したという話を……。