男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
信じたくないのに、反論の言葉は先ほど全て崩されてしまい、これ以上はなにも思いつけない。
大公殿下への信頼が揺らぐと同時に、非難の感情まで芽生えてきた。
私なら、なにがあっても兄のステファンを殺したりしない。
どちらか一方が死ななければならないのなら、私は自ら命を絶つ。
ステファンを殺して自分だけがのうのうと生きていくなんて……そんな地獄は耐えられない。
唇を噛み締める私を、ロドリグは薄笑いを浮かべて見ていた。
流れる音楽が、快活な曲から哀愁漂うものに変わる。
その変わり目に、ホールの両開きの扉が開いて、銀色の髪が見えた。
別室で田舎貴族の陳情を聞いていた殿下が、戻ってきたのだ。
それに気づいたロドリグが席を立つ。
「君も殺されないようにね」と言い置いて、ニヤつきながら、私から離れていった。
入れ違いに戻ってきた殿下が、私の隣の椅子に腰を下ろし、優しげな笑みを浮かべた。
「ひとりにさせて、悪かったな」
そう言うということは、どうやらロドリグと話していたところは見られていないのだろう。
「いえ、ひとりでも大丈夫です。ただ食べているだけでしたから……」