男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ごまかしたのは、七年前の話を聞いたと、気づかれたくなかったから。
『本当に弟を殺したんですか?』と、そんな恐ろしいことを聞く勇気はない。
『本当だ』と言われてしまったら、さらに恐ろしい思いをすることになる。
まだロドリグの話を百パーセント信じたわけではないけれど、グラグラと心が揺れていた。
殿下に対するこの信頼を、失いたくないのに……。
思わず目を泳がせる私に、殿下は「どうした?」と訝しむ。
「元気がないな。疲れたのか?」と、顔を覗き込まれて心配された。
「え、えーと……そうかもしれません。こういう場は不慣れなもので……」
大きな手が頭に乗り、くしゃくしゃと撫でられた。
温かく優しいこの手を信じたい……頭ではそう思うのに、心の中のモヤモヤとした不信感を払拭できずにいた。
目を合わせることのできない私を、殿下はさらに心配する。
「お前はもう帰った方がよさそうだな。従者の控室にクロードが待機しているから、馬車を出してもらえ」
「途中で抜けてもいいんですか?」
「ああ。俺はまだ帰る訳にいかないが、お前だけなら問題ない」
そう言われて、私は招待されてここにいるのではないことを思い出す。
確かに私だけなら、問題なさそうだ。
むしろバルドン公爵は、『早く帰れ』と思っていることだろう。