男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
それで私は立ち上がり、殿下に一礼すると背を向けた。
その背に優しい声が掛けられる。
「今夜は早く寝ろよ。具合が悪ければ、クロードかジャコブに言うんだぞ」
「はい……」
私の知っている殿下は、こういう慈悲のあるお方だ。
それだけを信じていたいのに……。
城に帰ってきた私は、沐浴を済ませ、白い上下の寝巻きに着替えて、ベッドに入っていた。
具合が悪い訳ではないのに、元気のない私を心配するジャコブに無理やり薬を飲まされ、その苦味がまだ口の中に残っている。
今は静かな部屋にひとりきり。
ランプも消して暗い中で、いつもならすぐに眠りが訪れるのに、今宵はなかなか眠れない。
目を瞑れば、ロドリグから聞いた話の情景が、瞼の裏に勝手に描き出されてしまうからだ。
天井に向けて、溜息をつく。
銀髪になった理由が呪いというのは、真実なのだろうか……。
弟君の死を悼む振りをして、黒い棒タイを締めているというのは、本当だろうか……。
殿下は自分が大公になるために、弟を殺したのだろうか……。
嫌だ、信じたくない……。