男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
寝返りを打ち、隣の殿下の寝室の方を向く。
ベッドからドアまでは十歩ほどの距離がある。
鍵のないドアの下の隙間からは、微かに明かりが漏れていた。
あれは夕暮れ時に執事が灯したランプが、そのままになっているだけで、殿下はまだ帰ってきていない。
早く帰ってきてほしいような、戻ってきてほしくないような……。
対立するふたつの感情と戦っていたら、隣の部屋の廊下側のドアを開けて閉める音がした。
声を低く落とした会話も聞こえる。
なにを話しているのか分からないが、その声は殿下とクロードさん。
小さく笑い声も聞こえて、その後にクロードさんだけが部屋を出ていく音が聞こえた。
緊張が走ったのは、足音がこっちに向かってくるからだ。
慌てて目を瞑り寝た振りをすると、この部屋に繋がるドアが静かに開けられた気配がして、隣の部屋の明かりを瞼越しに感じていた。
鼓動が速まる中で、小さな足音はゆっくりと近づいてくる。
その音が止んだと思ったら、ベッドが軋み、縁に殿下が腰掛けた気配がした。
なにをするつもりなのかと危ぶみ、私の緊張は増すばかり。
それでも決して目を開けず、寝たふりに気づかれぬよう、規則正しい呼吸を繰り返していた。