男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
うちは貧乏なので、父の仕事の補佐から雑用までなんでもこなす執事がふたりだけ。
一応執事長と肩書きのついているエドモンは、六十歳を過ぎたおじいちゃんだ。
この人は、さぞかし優秀なのだろうと尊敬の眼差しを向けつつ「クロード殿、よろしくお願いします」と挨拶を返したら、クスリと笑われた。
「クロードで結構ですよ」
「じゃあ、クロードさんと……」
ジャコブは私の身の回りの世話もしてくれる従者なので、呼び捨てできても、クロードさんは無理だ。
大公殿下の側付きの執事長なのだから、失礼は許されない気がしていた。
クロードさんは私を隣のドアへと誘導する。
今、他の貴族が謁見中ということで「控室でお待ち下さい」とのことだが、そのドアを開けるより先に謁見の間の扉が開いたので、廊下の途中で足を止めた。
体半分を廊下に出して、顔を室内に向けているのは、ずんぐりとした体型で口髭を蓄えた男性貴族。
「よいですか、殿下。約束をお忘れになりませぬよう、頼みますぞ!」と強い口調で言い残し、手荒にドアを閉めていた。
歳は四十代後半といったところか。
コテコテの刺繍の施された茶色の上着を着て、ブラウスの衿止めは派手なルビー。
高級な服を身に纏っていても、趣味が悪いと言いたくなる。
しかし、服装よりも腰に差した剣の方に私の目は向く。
ここで帯剣を許されるということは、かなり高い地位の貴族に違いない。