男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
殿下に動く様子はない。
寝ている私をただ見ているだけといった雰囲気だったが、しばらくしてから私の額に手が触れた。
「熱はないな……」
その言葉で、どうやら私の体調を気遣ってくれているのだと知る。
舞踏会を途中退席できずとも、ずっと心配していたのだろう。
やっぱり殿下は優しい人だ。弟君を手にかけたなんて、信じたくない。
それでも、ロドリグの話を消せないのはどうしてなのか……。
私の意に反して脳が勝手に『殺されないようにね』という言葉を思い返す。
すると、額に触れる手に、優しさ以外の意味があるのではないかと不安になった。
もしかしたら……という恐ろしさの中で、殿下の手が額から離れる。
その手は私の頬を撫で下ろし、指先で唇をそっとなぞった。
これにはピクリと反応してしまい、「起きてるのか?」と問いかけられた。
返事はしない。心臓が爆音を響かせても目を開けず、ひたすら寝たふりを続ける私。
「寝てるな……。
おやすみステファニー、よい夢を」
頭が撫でられた後に、殿下が立ち上がった気配がして、足音が遠ざかっていく。
瞼に感じる明るさが消え、ドアの閉まる音を聞いてから、私はやっと目を開けた。
寝返りを打って、隣の部屋に背を向け、毛布の中で寝巻きの胸元を握りしめる。
落ち着こうと深呼吸を繰り返していた。
ロドリグが恐ろしいことを言うから、ほんの少しだけ身の危険を感じてしまったじゃない。
殿下は私を心配して、様子を見にきてくれただけなのに……。