男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
避けた理由は、心の整理がつかないからだ。
殿下に対する信頼と恋心は、不安定な足場に乗せられた状態で揺れていた。
七年前のことが気になって仕方なく、それでも尋ねる勇気を持てないから、考え込むばかり。
会いたいのに会いたくないという、複雑な気持ちに困った私は、避けるという行動を取ってしまったのだ。
殿下は射るような目で私を見ながら、近づくその距離は、あと一馬身ほど。
ジェフロアさんは木刀を下ろして右腕を胸の前に、敬礼の姿勢を取っている。
エドガーたちは、驚きを顔に浮かべて、軽く頭を下げていた。
私は……目を泳がせ、さらに足を後ろに引き、どうやってこの場を逃げ出そうかと考えていた。
急に気分が悪くなったと言って、走って自室に戻ろうか……。
しかし、逃げたいという気持ちを読まれたのか、素早く動いた殿下に距離を詰められ、左手首を握られた。
「で、殿下……」
恐る恐る仰ぎ見たその顔には、あきらかな苛立ちが。
「連日、具合が悪いと言っていた奴が、随分と元気そうじゃないか」
そう言って私から逃げる口実を奪ってから、殿下はジェフロアさんに向けて言った。
「授業を邪魔してすまないが、ステファンを連れて行くぞ」