男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ジェフロアさんは戸惑いながらも、殿下に言われたら頷くしかない。
私は青くなりながら、慌てて口を開いた。
「私は授業を受けなければなりません。教育は義務のはずです」
「剣術大会で優勝したお前に、剣術の授業は必要ない。するのなら、詰所で訓練だろう」
「で、でしたら、今から詰所に……」
口答えしつつ、左手首から殿下の手を無理やり外したら、二本の長い腕が素早く腰に回されて、視界が傾いた。
あっと思ったときには肩の上に担がれていて、「つべこべ言うな」とお叱りの言葉もいただいた。
そのまま南のドアから中庭を出た殿下は、驚く使用人たちに目もくれず、螺旋階段を上って執務室に私を連れて行き……。
中にクロードさんがいることを期待したが、残念ながら誰もいなかった。
殿下が私になにかしようとしても、止めてくれる人はいないということだ。
焦る理由は恋心ゆえの恥ずかしさではなく、これから問い詰められると予想してのことだ。
ドアに鍵をかけた殿下は、部屋の奥まで行き、長椅子の上でやっと私を下ろした。
縮こまって座る私。
殿下はその正面に立つと、腕組みしてじっと見下ろしている。
嫌な緊張感に冷や汗を流していたら、苛立ちをにじませた低い声を聞いた。
「なぜ俺を避ける?」
聞かれると予想していた通りの言葉だが、うまく切り抜けられそうな答えは思いつかない。
度々使ってきた具合が悪いという申告は、嘘だとバレているようでもあるし。