男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
答えられずに俯くだけの私に、重たい溜息が降ってきた。
「俺はお前に、嫌われたということか?」
「そ、そんなことは決してありません!」
避ける理由を嫌っているからと解釈されたことに驚き、慌てて顔を上げて否定した。
すると目が合って、心臓が大きく跳ねる。
哀愁漂う青い瞳……私は、そんなにも殿下を傷つけていたのだろうか……。
罪悪感に堪らず目を逸らしたら、殿下の腕が伸びてきて、肩を強く押された。
「あっ」と声をあげて、長椅子の上に倒される私。
その上に殿下が覆い被さり、左腕を私の顔横に突き立て、右手は顎先を固定した。
顔を背けることもできず、驚きと恥ずかしさの中で視線を合わせていると、青い瞳が苦しそうに幅を狭めるのを目にした。
「嫌いではないと言うのなら、避ける理由を白状しろ。この三日間のお前は、あきらかにおかしいだろ。舞踏会でなにかあったのか?」
「な、なにもありませんが……」
「嘘をつくな。言え。言わぬなら、唇を奪うぞ」
「ええっ!?」
形のよい唇がゆっくりと近づいてきて、私はパニックに落とされる。
殿下をお慕いしていても、色気のある展開を望むほどには、恋心が成熟していない。
十六歳で初めて恋を知った遅咲きの私なので、唇へのキスを落ち着いて受け入れることなどできなかった。