男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「待ってください!」と両手で殿下の胸元を押し返そうとするも、ビクともしない。
唇の距離はどんどん近づいて指二本分となり……慌てるあまりに言ってしまった。
「全て白状しますから!」と。
すぐに殿下は私の上から降りてくれて、大きく息を吐き出した。
それでも速いリズムを刻むこの鼓動は、しばらく落ち着いてくれそうにない。
ロドリグから聞いた弟殺しの話を、殿下に言わなければならない展開になってしまったからだ。
どうしよう、どう言ったらいいのか……。
長椅子の上に身を起こして、膝の上に乗せた両手をぎゅっと握りしめる。
殿下はテーブルを挟んだ向かいの、ひとりがけの椅子にどっかりと腰を下ろし、肘掛に両腕を乗せた。
「早く言え。嘘をつくなよ」
「は、はい。舞踏会で、殿下が途中退席されたときに、私は……」
ロドリグが声をかけてきたところから、ポツポツと話し出す。
弟殺しという、恐ろしい言葉は使わなかったけれど、話したことの意味は同じだ。
邪視の少年を手に入れた殿下は、その子を使って弟を手にかけた。大公の爵位を、弟に取られないようにするために……。
話しながら、殿下の顔色を伺う私。
眉間に深い皺を刻み、苦痛に耐えているような顔をして、殿下は口を挟まずに黙って最後まで話を聞いていた。