男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
今から七年前の春のことーー。
モンテクレール大公の病床を、三人の子供たちが見舞っていた。
十八歳のアミルカーレと、十六歳のアベル。もうすぐ五歳になるリリアーヌだ。
大公は苦しい息の中で、子供たちの顔を見回して言う。
「選択に迷うことがあれば、どちらが国のためになるか考えよ。再び戦乱の世に戻らぬよう、力を合わせて、この国を守るんだ」
アミルカーレは父の言葉を深く受け止め頷いた。
弟のアベルは「兄上を支えて、国の力となります」と決意を述べる。
妹のリリアーヌはまだ幼いため、父の言葉より腕に抱いている人形のほうを気にしている。
人形のリボンが解けてしまったようで、小さな手で結び直そうと一生懸命になっていた。
三人の子供たちが父の寝室から廊下に出ると、アミルカーレは執務室のある南へと足を向ける。
その足にリリアーヌがしがみついた。
「アミルお兄様、どこへ行くの? リリィと遊びましょ?」
アミルカーレは困り顔になる。
遊んであげたくても、父の代わりに処理しなければならない仕事が山積みなのだ。
妹の体をひょいと持ち上げ、腕に抱いたのはアベルだった。
「リリィ、僕が遊んであげるよ。兄上はお忙しい。仕事が終わるまで邪魔をしてはいけないよ」
リリアーヌは素直に頷き、小さな手を振る。
「アミルお兄様、お仕事頑張ってね」
アミルカーレは頷いてふたりに背を向け、長い廊下を歩き出す。妹を泣かせずに済んだことを、弟に感謝しながら。