男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
明るい日の差し込む執務室にこもり、仕事をすること数時間。
ドアがノックされ、執事のクロードが入ってきた。
「アミル様、バルドン公爵がお見えです」
乳兄弟であるクロードが畏まって話すということは、バルドン公爵がすぐそこに立っているからだろう。
「ちょうどよかった。聞きたいことがあったんだ。通してくれ」
アミルカーレがそう言うと、クロードを押しのけるようにして、ずんぐりとした体型の中年の紳士が入ってきた。
叔父にあたるバルドン公爵は、アミルカーレに仕事を教えているので、よくこの執務室に出入りしている。
病床の大公は長く話すことも難しく、アミルカーレが政務を相談できる相手は、それまで大公の仕事を手伝ってきた、バルドン公爵しかいなかったのだ。
ずかずかと執務室に入ってきたバルドン公爵は、執務机に向かうアミルカーレの横で立ち止まった。
「叔父上、どうしましたか?」
彼がそう尋ねた理由は、公爵が困り顔をしているからだ。
どことなく芝居掛かっているような気はしたが、露骨に溜息までつかれては、尋ねないわけにいかない。
「カブレラ公爵が、屋敷に貴族たちを招いて、なにやらヒソヒソとやっておるようだ」
「アベルを次の大公にするための密談ですか?」
「恐らく。余計な争いごとを作りおって、困った連中だ」