男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
そう判断して、こっちに向かってきた男性貴族に道を開け、トラブル防止のために私から頭を下げた。
隣でジャコブも深々と頭を下げ、クロードさんだけは明るい口調で声をかけている。
「バルドン公爵、そのご様子ですと、大公殿下は渋っておいでなのですか?」
バルドン公爵……?
どこかで聞いた名前だと考えて、すぐに思い出した。
馬車に揺られて城下街を移動していたときに、西の方に見えた大きな屋敷。
ジャコブに尋ねると、『バルドン公爵のお屋敷です』と言っていた。
大公殿下の叔父上で、モンテクレール家に次ぐ権力者だとも言っていた覚えがある。
かなり高い地位の人だと感じた第一印象は、間違えていないようだ。
酒灼けしたような嗄れた声で、バルドン公爵は忌々しげに答える。
「今度はうんと言わせてやったわい。生返事だったがな……。一体、わしの娘のどこが気に入らんというのだ」
なにがあったのか知らないが、大公殿下への怒りを滲ませるバルドン公爵は、フンと鼻を鳴らしてから、やっと私に関心を向けた。
「はて、見かけん顔だな。名前は?」と尋ねられ、姿勢を正して口を開いた。
「ステファン・フォーレルと申します」
「フォーレル? ああ、北の田舎の……。
教育を受けに来たのか。フン、せいぜい勉強に励んで、お前の代には納税額を上げてもらいたいところだな」