男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
大公の爵位を継ぐ資格があるのは、アミルカーレとアベルのふたりとも。
長子が継ぐとは決められていないから、弟を推す貴族たちもいるのだ。
叔父の心配を、アミルカーレは笑い飛ばす。
「放っておけばいいんですよ。アベル自身に野心がないのだから、周囲が騒いだところでどうにもなりません」
アベルは争いごとを好まない優しい性格をしている。兄に従順で、朗らかな笑顔でいつも『兄上』と慕ってくれる、可愛い弟だ。
それを誰よりも理解しているアミルカーレは、バルドンのように心配してはいなかった。
しかしバルドン公爵は「それはどうかな?」と意味ありげな言い方をする。
まるで、お前は弟を分かっていないと言いたげな返事をされて、アミルカーレはムッとした。
「叔父上、言いたいことはハッキリと仰ってください」
「情報を掴んだんだ。近ごろのアベルは、カブレラ公爵の屋敷に通っているそうだ。知らなかっただろう?」
「まさか……」
「弟を信じすぎれば、足元をすくわれる。気をつけたほうがいい」
アベルが大公の爵位を狙っているだと……?
心優しく、いつも笑顔で接してくれるアベルが、そんな、まさか……。
アミルカーレは信じられないと言いたげに、首を横に振り、ドア前に控えているクロードに命じた。
「アベルをここへ。本人に聞けば、その情報が間違いだと分かるはずだ。リリィの部屋にいると思うから、連れてきてくれ」