男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
すぐにクロードは出て行き、しばらくして顔を曇らせ、ひとりで戻ってきた。
「リリィ様はお昼寝をしておられました。アベル様は先ほど、行き先を告げぬまま外出されたそうで……」
アミルカーレは表情を険しくし、バルドン公爵は『ほら見ろ』と言わんばかりだ。
「今日ここにきたのはアベルに気をつけろということと、もうひとつ。今、都を騒がせている邪視の少年についてだ」
「邪視の子供なら、青の騎士に探させています。じきに捕まるかと…」
「そう簡単には捕まらんよ。カブレラ公爵が匿っておるからな」
「なに!?」
驚くアミルカーレの肩を公爵はポンと叩き、ニヤリと笑った。
「なぜ匿うと思う? この騒ぎをアミルカーレが抑えられなければ、弟を大公に押す声が大きくなると企んでのことだ。
アベルは優しいが頼りない。あの子が大公になれば、カブレラ公爵の意のままに操られるぞ」
父が病に倒れてからというもの、アミルカーレは日々の政務をこなすことに必死だった。
そのせいで貴族の権力争いや企みに疎いところがあり、弟の心まで見えていなかったということなのか……。
ショックを受けて青ざめるアミルカーレに、バルドン公爵は猫撫で声で囁いた。
「心配するな。ワシがついておる。アミルカーレが大公になってからも、ずっと側で支えてやるぞ」