男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

その夜、兄弟の言い争う声が執務室から聞こえていた。

兄に問い詰められた弟は白状した。

バルドン公爵の言う通り、カブレラ公爵の屋敷に通っていて、今日も訪ねていたことを。

しかし、それは大公の爵位を狙ってのことではないと訴える。


「邪視の子がカブレラ公爵に匿われていると聞き、会わせてくれるように頼みに行っていたんです。兄上、僕を信じてください!」


「信じたいから、こうして聞いている。
邪視の子供の居所を掴んだなら、なぜ俺に言わなかった」


「兄上に報告すれば、その子は捕らえられる。処刑される可能性も……」


アベルの言い分はこうだった。

邪視は迷信であり、実際に目を合わせただけで殺されるなどと、到底信じられない。

変死騒ぎは邪視のせいではなく、その迷信を利用して暗躍している悪しき輩がいるせいだ。

やるべきことは、邪視の子供を探し出して確かめること。

目を合わせても殺されないと、自分が証明しようとしていた。

青の騎士団に捕らえられ、無実の罪で処刑される前に……。


「カブレラ公爵は確かに、兄上ではなく僕を次の大公に望んでいると言っていました。そのために力を貸すとも。しかし僕は断りました」


いつもは柔らかな笑みを湛えている口元を引き結び、アベルは兄の目をまっすぐに見ていた。


「カブレラ公爵の屋敷に足を運んでいたのは、邪視の子供に会わせてほしいと頼んでいたため。うちにはいないと否定されましたが、屋敷から出てくるところを見た者がいるんです。
僕はただ、不幸な子供を救いたかっただけなんです」

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