男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
弟の話を聞き終えたアミルカーレは、ホッとしたような息を吐き出して、執務机の椅子にゆっくりと腰掛けた。
そして「疑ってすまなかった」と謝った。
誰もが恐れる邪視の少年を、可哀想だと救おうとしたアベル。
その優しさゆえの行動だったと言われたら、疑いの気持ちは消え失せた。
弟がそういう性格だと知っているからだ。
「兄上、ありがとうございます!」
アベルはパッと顔を輝かせたが、またすぐに曇らせる。
「それで、邪視の子供をどうするおつもりでしょうか………」と不安げに兄の考えを聞いた。
「心配するな。処刑など考えていない。俺もその子の背後に悪事を働く者がいると考えているからな。
ただ、民を不安から解放するためには、捕らえぬわけにいかない。その後は、どうするか……」
そのとき、執務室のドアが強く叩かれた。
何事かと振り向く兄弟が注視する中でドアが開けられ、青の騎士団長、クレマンが駆け込んできた。
クレマンはドア前で敬礼すると、興奮を隠せない顔で報告した。
「邪視の少年を捕らえました」
「なに!?」
「発見の一報がバルドン公爵家より入りまして」
「叔父上から?」
屋敷を出た兄弟は、クレマンと共に青の騎士団詰所に向かう。
門番が開けた分厚い鉄の扉から、石造りの要塞のような建物に入り、ランプに照らされる薄暗い廊下を進む。
階段を降りると、そこは地下牢だ。