男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
先ほどは弟を疑い、反省したばかりでもあるし、今度は叔父まで疑いたくない。
心に湧いた不信感をぐっと押し込めたアミルカーレは、牢の鉄格子の前に立った。
隣にアベルも立ち、兄弟の視線は牢の中で怯える子供に向いていた。
両目に汚れた包帯を巻かれ、人と目を合わせないようにさせられた少年は、十歳くらいか。
黒いボサボサの髪に、黄み掛かった肌。アジア系の顔つきに見える。
牢の隅に膝を抱えて座っていて、包帯が湿っているところを見ると、声を出さずに泣いているようだった。
「可哀想に」とアベルが呟く。
アミルカーレは「名前はなんと言う?」と少年に問いかけた。
しかし少年は肩をビクリと震わせ、声のする方に顔を向けただけでなにも答えない。
「名は?」ともう一度問いかけるアミルカーレに、青の騎士のひとりが答えた。
「耳は聞こえていますが、声が出せないようです。喉に切られた古傷がありました」
誰がそんな酷いことを……。
実際の少年を見て、アミルカーレも弟と同じように同情心が湧いていた。
ただ、アベルのように邪視など、ただの迷信だとは言い切れない。
なにかあってからでは困るから、目を合わせるべきではないと考えていた。
並んで立つ兄弟の後ろに、バルドン公爵の声がする。
「早めに処刑することだな。恐ろしい目だ。生かしておく必要はない」
その言葉にアベルは慌てる。
「この子は悪に利用されてきただけで、悪くない。第一、人を呪い殺す目など、存在しない!」
叔父に強く反論してから、アベルは鉄格子の向こうの少年に語りかける。
「君を助けたい。包帯を取って僕を見るんだ。
人を殺す力はないと、証明しなければ」