男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「なにを仰いますか!」とクレマン団長が慌てていた。
「アベル様、それはいけません!」と、他の騎士も口々に言う。
まだ邪視を信じているアミルカーレも、弟を止めた。
「やめろ。なにも起こらないという保証はない。万が一を考えろ」
しかしアベルは周囲の声に耳を貸さず、鉄格子を両手でしっかりと握りしめ、少年だけに語りかける。
「僕の言う通りにして。包帯を取って僕の目を見なさい。生きていたければ」
牢の隅で怯えていた少年は、震える手で包帯を首元まで下ろした。
「やめろ、こっちを見るな!」と皆は叫び、アミルカーレは弟を牢の前から引き剥がそうと、その体に腕を回していた。
「早く、目を開けて!」
アベルの声で、少年が閉じていた目を開けた。
黒目に三重の輪が確認できる。邪視と言われ、忌み嫌われてきた特殊な目だ。
その目とアベルの視線が合わさっても……なにも起こらなかった。
それから数日後のこと。
少年は牢から出され、使用人の居室を与えられて屋敷内で生活していた。
邪視は迷信で、人を呪い殺す力はないとアベルは証明してみせた。
しかし、それでも屋敷内の使用人たちは不安げで、少年を恐れて避けている。
命の危機を脱してホッとした様子の少年だったが、他の者の理解がないため、肩身の狭い思いをしていた。