男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
執務室には兄弟がいた。
執務机に向かって仕事中の兄に、弟は言う。
「あの子を、東の外れの修道院に預けようと考えています」
アミルカーレは書類に走らせていた羽根ペンを止めて、弟を見る。
少年に親兄弟はいないようなので、このまま屋敷で保護し、いずれは使用人として雇う相談をしたばかり。
それなのに修道院に預けようと言い出したことが意外に思えた。
しかし、理由は分かるので反対する気はない。
このまま屋敷に置いておけば、他の使用人たちから苦情が来そうだ。
かといって街に戻せば、またどこかの悪党に利用されかねない。
少年を利用していたとするカブレラ公爵は、都にある屋敷を没収とし、北西の田舎にある彼の領地から出ることを禁じる措置を取った。
弟を次期大公にと画策していたカブレラ公爵を失脚させたことでもあるし、これで少年を修道院に預けたら、しばらく都は平穏だろう。
厄介事が片付いた思いでいるアミルカーレだが、『バルドンに嵌められた!』と喚いていたカブレラ公爵の顔を思い出し、また考え込んだ。
叔父上を疑いたくないのだが……。
アミルカーレが顔をしかめて考えていたら、弟に不安そうに聞かれる。
「あの子も修道院に行くことを承諾してくれました。いい案だと思ったのですが、兄上は反対ですか?」
「いや、それでいい。きっと静かに穏やかに暮らせるだろう。早速手配を……」
「僕がやります。送って行こうと考えています」
「東の外れの修道院は遠いぞ?
そこまでしなくてもいいだろ」