男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
呆れるほどに優しい奴だと、アミルカーレが思っていたら、アベルは「いえ、実はもうひとつ考えていることがありまして」と口にした。
その表情はいつもの彼とは違っていた。
なにか苦しい決断でもしたかのように、険しい顔をして言った。
「僕もしばらく都を離れようと思います。東に領地を持つ、大叔父上の屋敷にお世話になろうかと」
「大叔父上の屋敷に? なぜだ?」
アベルは兄に説明した。
カブレラ公爵が失脚しても、彼の元に集っていた貴族たちが、まだアベルを次期大公にという主張を続けている。
今回の邪視の一件は、アミルカーレがバルドンと共に仕組んだことで、カブレラ公爵は無実だという噂まで流れているそうだ。
だから、自分は都を離れた方がいい。
担ぎ上げる対象が不在なら、アミルカーレに反対する者たちも諦めて大人しくなるだろう。
兄を想う弟の決意に、アミルカーレは椅子を鳴らして立ち上がった。
「そこまでしなくてもいい。父上の命は長くないと主治医が言っただろう。死に目に会えなくなるぞ」
「はい。それも覚悟しています。僕は父上が天に召されても、都へは戻りません。戻るときは、喪が明けた、兄上の大公就任式です」