男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
そんなことはさせられないと、首を横に振るアミルカーレに、アベルは説得を続ける。
「兄上、思い出してください。『選択に迷うことがあれば、どちらが国のためになるか考えよ』と父上は仰いました。
国のためになるのは、父上の死に目に会うことではなく、都を離れることです。今必要なのは、兄上を中心とした新しい国の地盤を作ることです」
「アベル……」
これまで弟が、ここまで兄に意見したことがあったろうか?
従順だった弟が、兄の反対を押し切る覚悟で決めた決断。
アミルカーレは弟に、そこまで考えさせるに至った自分の非力さを痛感していた。
アベルが戻るときまでに、もっと力をつけよう。
誰もが認める大公となれるように、これまで以上の努力をしよう……そう決意して、弟を腕に抱きしめた。
アベルが旅立ったのは、それから二日後のことだった。
もう包帯を巻かれることのない少年と一緒に馬車に乗り込み、まだ朝日の昇ったばかりの城から出て行った。
アミルカーレは門の前で、馬車が見えなくなるまで見送ってから屋敷に戻る。
弟が安心して戻ってこれる国作りを……という決意を新たにして。
その日の夜。
やけに白っぽい丸い月が、真っ黒な空に浮かんでいた。
遅くまで執務室にこもっていたアミルカーレは、羽根ペンを置き、そろそろ寝室に戻ろうかと考えていた。
そこに、大叔父の屋敷から早馬が送られてきたとの知らせが入る。
すぐに使者を謁見の間に通し、渡された書簡を開くと、そこに書かれていたことに彼は目を見開いた。