男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
バルドン公爵は蔑むような目でジロリと私を見て、それから後ろで手を組むと、大股で廊下をドスドスと歩いて階段の方へと姿を消した。
ものすごく、馬鹿にされた気が……。
クロードさんが、「申し訳ありません。バルドン公爵は誰にでもああいう物言いをされる方で……」とフォローしてくれたが、別に怒っている訳ではない。
田舎貴族だという自覚があるし、うちの領地は収益が低いから、大した税金を納めることができないのも事実だし。
ただ、苦手意識は持った。
できれば二度とお目にかかりたくないという気持ちでいた。
バルドン公爵の去った廊下を渋い面持ちで眺めていたら、「クロード、次を呼べ」という声が、謁見の間の扉の隙間から聞こえた。
いよいよ大公殿下と御対面だと思ったら、バルドン公爵のことは頭から吹っ飛び、緊張して鼓動が速まる。
これは怯えではなく、ワクワクした感覚に近い。
大公殿下はどのようなお方だろうか?
父から聞いた話に想像力を膨らませ、いかにも王様といった風貌のガッシリと逞しい、中年の紳士を想像していた。