男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
山間に架けられていた橋が落ちているとの知らせに、大叔父の家の者が確認に行ったところ、崖下には橋と共に馬車が一台落下していた。
それはモンテクレールの家紋のついた馬車で、馬も御者も、中に乗っていた人も皆、亡くなっていたと書かれてあったのだ。
アベルが……そんなの嘘だ……。
この目で確かめるまでは信じられぬと、アミルカーレは少ない護衛の騎士を連れ、真夜中に馬を飛ばした。
大叔父の屋敷にたどり着いたのは明け方のことで、そこで対面したのは、変わり果てた弟の姿だった……。
長い話だった。
いつの間にか空には雨雲が広がり、執務室に差し込んでいた日の光は消え失せている。
ポツポツと降り出した雨が、窓ガラスを濡らしていた。
苦痛に耐えながら、弟君の亡骸と対面したところまで話してくれた殿下は、立ち上がって、ゆっくりと窓の方へ歩いていた。
雨に濡れて歪む前庭の景色を眺め、殿下は続きを口にする。
「俺が未熟だったせいで、アベルは死んだんだ。守ってやれなかった。俺が殺したようなものだ」
「そんなことは……」
私がロドリグから聞いた話とは違っていた。
殿下が邪視の少年を使って、弟君を殺した訳ではなかった。
都を離れることにしたのは弟君の決断であり、殿下の命令ではない。
亡くなった理由も不運な事故だというのに、その死に責任を感じるなんて……。