男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
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殿下と恋仲になった翌日、もうすぐ西の空が赤みを帯びるという頃。
授業が終わった私は、教科書を手に北側の階段を上っていた。
いつもなら、やっと解放されたという思いで駆け上がるのに、今日は一段一段、踏みしめるように進んでいる。
それは考え事をしているためだ。
今日は午餐の休憩時間に、青の騎士団の詰所に顔を出してきた。
いつもは訓練中の騎士が四十人ほどいるというのに、今日はやけに少なくて、クレマン団長もジェフロアさんも不在だった。
残っていた騎士に事情を聞くと、邪視の件で都が騒ついているから、見回りの騎士の人数を増やすことにしたそうだ。
それに加えて、変死事件の調査にも人員を割いている。
昨夜は北の貧民街で、路上に倒れて息絶えている若い男性が発見されたそうだ。
外傷はないが、口から泡を吹いていたらしい。
持病のない若者ということで病死の線は考え難く、だとしたら、毒殺か、それとも……。
その男性が倒れていた道沿いに住む老人が、真夜中に叫び声を聞いたと、騎士に申し出たそうだ。
窓から覗くと、雨上がりの道を、ランプを手にした男の子がひとり、歩き去る後ろ姿が見えたとか。
原因不明の死を遂げた者の近くで、不審な子供の姿が見かけられたという事件は、それが三例目。
街の民は、邪視に呪い殺されると、すっかり怯えているそうだ。