男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
誰がなんのために、再び邪視騒ぎを作り出しているのか……。
これでは七年前の、アベル様の努力が無駄になってしまうというのに……。
ゆっくりとステップを上りきり、三階に着くと、ジャコブと鉢合わせた。
「今、呼びに行くところでした」と彼は言う。
「謁見の間に向かって下さい。
バルドン公爵がお見えになったそうです」
ふてぶてしいバルドン公爵の顔を思い出し、「げ」と正直な反応をしてしまったら、ジャコブが苦笑いする。
「ステファン様、くれぐれも謁見の間で嫌そうな顔をなさいませんように」
そう注意されても頷けず、「努力するよ」とだけ返事をした。
これまでの経験上、バルドン公爵がいい話を持ってくるはずはないと知っている。
殿下はまた不愉快な思いをさせるのだろうと、気の毒に思いながら、ジャコブに教科書を預け、上ったばかりの階段を駆け下りた。
謁見の間の前に着くと、ちょうど殿下が執務室から出てきたところだった。
早々と眉間に皺を寄せていた殿下だが、駆け寄る私に気づいて、微笑んでくれる。
「お前の顔が見られるなら、叔父上が来ても、嫌なことばかりではないな」
そう言って、大きな手で頭を撫でてくれるから、私の頬はポッと火照る。
殿下がそう思って下さるなら、私だって……。
さっきまでの憂鬱な気分はどこへやら。
殿下のお側にいられるこの時間に、感謝の気持ちすら湧いてくるのだった。